はじめに

M&Aを実行する際には、フィナンシャル・アドバイザー(FA)への報酬、デューデリジェンス(買収監査)を担う会計士・弁護士への報酬、仲介手数料など、さまざまな外部専門家費用が発生します。これらの費用は金額的にも重要となることが多く、「買収のための支出だから取得原価(買収価額)に含めるのか、それとも当期の費用として処理するのか」という論点が生じます。

結論として、現行の企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」では、これらの取得関連費用は発生時に費用処理することとされています。本記事では、第26項に基づき、取得関連費用の会計処理を解説します。

概要

取得関連費用の取扱いは、次のとおりシンプルに整理できます。

取得関連費用(外部アドバイザー等への報酬・手数料等)
    ↓
発生した事業年度の費用として処理(第26項)
    ↓
取得原価には含めない → のれんの金額に影響しない
    ↓
連結・個別のいずれでも発生時費用処理

取得原価そのものは、第23項により「取得の対価(支払対価)となる財の企業結合日における時価」を基礎として算定されます。取得関連費用はこの取得原価とは別物として扱われます。つまり、取得原価は被取得企業の支配を得るために引き渡した対価そのものを表し、その対価を実現するために要したアドバイザー報酬等の費用は取得原価の外側に位置づけられるという整理です。この区別を押さえておくと、買収に伴って発生する各種の支出を、取得原価に算入すべきものと費用処理すべきものとに正しく振り分けることができます。

具体的な会計処理

第26項:発生時費用処理の原則

第26項は、取得関連費用(外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等)は、発生した事業年度の費用として処理すると定めています。

つまり、買収を目的として支出したものであっても、これらの費用は資産(取得原価・のれん)として繰り延べるのではなく、支出した期の損益に反映させます。買収の検討段階から実行までに発生する外部専門家への報酬・手数料は、その発生のつど、発生した事業年度の費用として処理することになります。

費用の例

取扱い

フィナンシャル・アドバイザー(FA)報酬

発生時費用処理

デューデリジェンス費用(会計・税務・法務)

発生時費用処理

仲介手数料・成功報酬

発生時費用処理

取得のための調査・専門家費用

発生時費用処理

なぜ取得原価に含めないのか

取得原価は、被取得企業の支配を得るために引き渡した対価の時価を表すものです。アドバイザー報酬等の取得関連費用は、被取得企業そのものの価値(受け入れる資産・負債の対価)ではなく、取得を実現するために取得企業側が負担したコストです。

このため、取得関連費用を取得原価に含めると、受け入れた資産・負債の純額との差額であるのれんが、本来の被取得企業の価値とは無関係な費用分だけ膨らんでしまいます。発生時費用処理とすることで、のれんは取得対価と識別可能純資産の差額として純粋に把握され、取得関連費用は発生した期の費用として明確に区分されます。この考え方により、のれんが取得関連費用の分だけ水増しされることを避け、被取得企業の本来の価値をより適切に反映できるようになります。

仕訳例(取得時にFA報酬3,000万円・DD費用1,000万円を支払った場合)

(借方)支払手数料(取得関連費用)  40,000,000  (貸方)現金預金  40,000,000

この4,000万円は取得原価には含めず、当期の費用(販売費及び一般管理費等)として処理します。仮にこの費用を取得原価に含めてしまうと、のれんが4,000万円過大に計上され、その後の各期の償却を通じて損益が歪むことになります。発生時費用処理により、こうした歪みを避けることができます。したがって、のれんの計算は次のように取得対価のみで行われ、取得関連費用は影響しません。

のれん = 取得原価(支払対価の時価)− 識別可能純資産(時価)
       ※ 取得関連費用は取得原価に含めない

連結財務諸表と個別財務諸表での取扱い

取得関連費用は、連結財務諸表・個別財務諸表のいずれにおいても発生時の費用として処理します。すなわち、子会社株式の取得(個別上の投資勘定)に付随して支払ったアドバイザー報酬等についても、取得原価(投資の取得原価)に含めず費用処理する考え方が基本となります。

区分

取得関連費用の取扱い

連結財務諸表

発生した事業年度の費用

個別財務諸表

発生した事業年度の費用

なお、子会社株式の取得に係る付随費用の個別上の取扱いについては、関連する適用指針等もあわせて確認することが望ましいですが、企業結合会計基準の考え方としては「取得関連費用は発生時費用処理」が貫かれています。

実務上は、連結グループとして買収を行う場合、親会社の個別財務諸表では子会社株式(投資勘定)を計上し、連結財務諸表ではその投資と被取得企業の純資産を相殺消去してのれんを算定します。取得関連費用はこのいずれの段階でも取得原価(投資の取得原価・のれん)に含めず、発生した期の費用として損益計算書に計上します。したがって、連結・個別を通じて、買収を実行した期の利益が取得関連費用の分だけ押し下げられる点に変わりはありません。

IFRSとの整合

現行の発生時費用処理は、IFRS第3号「企業結合」が取得関連費用を発生時に費用認識することと整合しています。日本基準はかつて取得関連費用(付随費用)を取得原価に含める取扱いでしたが、平成25年改正によって発生時費用処理へと変更され、国際的な会計基準とのコンバージェンスが図られました。

この改正の背景には、取得関連費用が被取得企業の公正価値(受け入れる資産・負債の価値)を構成するものではなく、取得企業が取得を実現するために負担したコストであるという考え方があります。取得対価そのものではない費用を取得原価に算入すると、のれんがその分だけ過大に計上され、被取得企業の本来の価値を適切に表さなくなります。発生時費用処理とすることで、のれんは取得対価と識別可能純資産の差額として純化され、財務諸表利用者にとっての比較可能性も高まります。

この変更により、買収を実行した期には取得関連費用が一時の費用として損益に表れるようになりました。買収案件の規模が大きいほど取得関連費用も増える傾向があるため、業績予想や決算開示において、のれん償却とは別にこの一時費用の影響を見込んでおくことが実務上重要となっています。

観点

改正前(旧取扱い)

現行(第26項)

IFRS第3号

取得関連費用

取得原価に含める

発生時費用処理

発生時費用処理

損益・キャッシュ・フローへの現れ方

取得関連費用は発生時に費用処理されるため、買収を実行した事業年度の損益計算書において、販売費及び一般管理費等として計上されるのが一般的です。買収対価そのもの(投資キャッシュ・フロー)とは性質が異なり、損益を直接押し下げる要因となります。

たとえば、大型買収でFA報酬・DD費用・各種手数料が合計で数億円規模に達する場合、その全額が買収実行期の費用となり、当期利益を圧迫します。一方で、買収によって取り込んだ被取得企業の収益貢献は買収後の期に表れるため、費用の計上時期と収益貢献の時期にずれが生じます。この点を踏まえ、業績予想や経営計画の策定時には、取得関連費用の一時的な損益インパクトを織り込んでおくことが重要です。

なお、取得関連費用は発生時費用処理であるため、のれんのように複数年にわたって償却されるものではありません。したがって、買収実行期に費用が集中する一方、翌期以降にはその影響が残らない点も、業績の期間比較を行う際に意識しておくべき特徴です。

取得原価・のれんとの切り分けの整理

取得関連費用をめぐる論点は、「何が取得原価を構成し、何が費用となるのか」という切り分けに集約されます。整理すると次のとおりです。

項目

取扱い

性質

取得の対価(支払対価の時価)

取得原価を構成(第23項)

被取得企業の支配を得るための対価

取得関連費用(FA報酬・DD費用・仲介手数料等)

発生時費用処理(第26項)

取得を実現するために取得企業が負担したコスト

識別可能資産・負債への配分

取得原価を配分(第28項)

受け入れた資産・負債そのもの

のれん

取得原価と識別可能純資産の差額(第31項)

超過収益力等

このように、取得関連費用は取得原価を構成する各項目とは明確に区別され、唯一「発生した期の費用」として処理されます。この切り分けを理解しておけば、買収に伴って発生する多様な支出を、取得原価に含めるべきものと費用処理すべきものとに整理しやすくなります。

留意点

  • のれんへの影響なし:取得関連費用は取得原価に含まれないため、のれんの金額・償却額に影響しない。買収採算の評価では、のれん償却負担とは別に取得関連費用の損益インパクトを見積もる
  • 計上時期の損益影響:取得関連費用は発生時に一括費用化されるため、買収を実行した期の利益を押し下げる。決算見通しや業績予想において、費用計上のタイミングを織り込んでおく
  • どこまでが「取得関連費用」か:株式の発行費用(増資に伴う費用)など、取得関連費用とは性質の異なる費用は別の基準に従って処理する。費用の性質を見極めて区分する
  • 税務との差異:会計上は発生時費用でも、税務上の取扱い(取得価額への算入の要否等)は別途確認を要する。会計・税務の差異は税効果会計の対象となりうる
  • 連結と個別の整合確認:いずれも費用処理が基本だが、個別上の子会社株式の付随費用の取扱いについては関連適用指針を確認し、連結修正との整合をとる

まとめ

取得関連費用の会計処理は、次のように整理できます。

観点

内容

根拠

定義

外部アドバイザー等への特定の報酬・手数料等

第26項

処理

発生した事業年度の費用として処理

第26項

取得原価

含めない(のれんに影響しない)

第23項・第26項

連結・個別

いずれも発生時費用処理

第26項

国際整合

IFRS第3号と整合(平成25年改正で変更)

IFRS第3号

取得関連費用は「発生時に費用処理し、取得原価・のれんには含めない」という一点を押さえれば処理は明快です。実務では、買収を実行した期に費用が集中して損益を押し下げる点と、税務上の取扱いとの差異に注意し、業績見通しと税効果の検討に反映させることが要点となります。