はじめに

収益認識基準(企業会計基準第29号)を適用すると、損益計算書の売上高の計上タイミングだけでなく、貸借対照表に「契約資産」「契約負債」という新しい勘定が登場します。これらは従来の「売掛金」「前受金」と似ているようで定義が異なり、混同すると表示・注記を誤ります。

本記事では、契約資産・契約負債・顧客との契約から生じた債権という3つの勘定について、それぞれの定義(第10項〜第12項)と違い、貸借対照表での表示と注記の考え方(第77項〜第79項)を、仕訳例を交えて基礎から整理します。

概要

これら3つの勘定は、ステップ5で収益を認識した結果として、「収益を先に計上したか」「対価を先に受け取ったか」「対価への権利が無条件か」によって決まります。

収益を認識した(履行義務を充足した)
    ├─ まだ対価を受け取る権利が無条件でない(他の条件にも依存)
    │       → 契約資産(第10項)
    └─ 対価への権利が無条件(時の経過で支払期限が到来)
            → 顧客との契約から生じた債権(第12項)

対価を先に受け取った/受け取る期限が到来した(収益はまだ認識していない)
    → 契約負債(第11項)=前受金

定義を条文で確認すると次のとおりです。

勘定

定義(要旨)

根拠条項

契約資産

企業が顧客に移転した財・サービスと交換に受け取る対価に対する権利(債権を除く)

第10項

契約負債

財・サービスを顧客に移転する企業の義務に対して、企業が顧客から対価を受け取ったもの(又は対価を受け取る期限が到来しているもの)

第11項

顧客との契約から生じた債権

企業が顧客に移転した財・サービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち、無条件のもの

第12項

具体的な会計処理

ステップ1:契約資産と債権の違いを理解する

契約資産と債権は、どちらも「企業が財・サービスを移転して得た対価への権利」である点では共通します。違いは、その権利が無条件か否かにあります。

観点

契約資産(第10項)

顧客との契約から生じた債権(第12項)

対価への権利の状態

無条件ではない(時の経過以外の条件にも依存)

無条件(時の経過のみで支払期限が到来)

典型例

複数の履行義務のうち一部を充足したが、残りを履行するまで請求できない場合の充足分

検収・引渡し等が完了し、あとは支払期日を待つだけの売掛金

性質

対価を収受する現在の権利を未だ有していない

対価を収受する現在の権利を有している

ポイントは、契約資産は「収益は認識したが、まだ顧客に請求できる(無条件で対価を求められる)状態になっていない」権利だという点です。例えば、1つの契約に複数の財・サービスがあり、一部を移転して収益を認識したものの、契約上は全部を移転してはじめて請求できる場合、その充足分は契約資産となります。その後、請求要件が満たされ対価への権利が無条件になった時点で、契約資産から債権(売掛金)へ振り替えます。

仕訳例:1契約で機器A(500万円)と据付サービスB(300万円)を提供し、契約上は両方完了後に一括請求する条件。当期にAを引き渡し収益認識したが、Bが未了で請求権はまだ無条件でない場合

(機器A引渡時:収益認識。請求権が無条件でないため契約資産)
(借方)契約資産  5,000,000  (貸方)売上高(機器A)  5,000,000

(据付B完了時:収益認識し、対価への権利が無条件に)
(借方)契約資産  3,000,000  (貸方)売上高(据付B)  3,000,000
(借方)売掛金(債権)  8,000,000  (貸方)契約資産  8,000,000

このように、対価への権利が無条件になった段階で契約資産から債権へ振り替える点が実務上のポイントです。

ステップ2:契約負債(前受金)を理解する

契約負債は、財・サービスを顧客に移転する企業の義務に対して、企業が顧客から既に対価を受け取っている、又は対価を受け取る期限が到来しているものをいいます(第11項)。いわゆる前受金にあたります。

財又はサービスを顧客に移転する前に顧客から対価を受け取る場合、顧客から対価を受け取った時に、受け取った対価について契約負債を貸借対照表に計上します(第78項)。その後、履行義務を充足した時に契約負債を取り崩し、収益を認識します。

仕訳例:年間保守サービス(12カ月、120万円)の対価を契約開始時に一括前受し、毎月役務を提供する場合

(契約開始時:対価を先に受領)
(借方)現金預金  1,200,000  (貸方)契約負債  1,200,000

(毎月:履行義務の充足に応じて取り崩し。月10万円)
(借方)契約負債  100,000  (貸方)売上高(保守サービス)  100,000

なお、顧客から対価を受け取る前又は受け取る期限が到来する前に、財・サービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した場合は、収益を認識し、契約資産又は債権を計上します(第77項)。つまり、第77項は「企業の履行が先行」した場合、第78項は「顧客の支払が先行」した場合の取扱いを定めています。

ステップ3:貸借対照表で表示・注記する

企業が履行している場合や顧客から対価を受け取る場合等、契約のいずれかの当事者が義務を履行したときは、企業は当該契約について、契約資産・契約負債・顧客との契約から生じた債権を、適切に貸借対照表に表示します(第79項)。

実務上の表示・区分の考え方は次のとおりです。

勘定

貸借対照表上の区分

表示科目の例

顧客との契約から生じた債権

資産(流動/固定)

売掛金、営業債権 等

契約資産

資産(流動/固定)

契約資産(債権と区分して表示又は注記)

契約負債

負債(流動/固定)

契約負債、前受金 等

契約資産と債権は性質が異なるため、両者を区分して表示するか、区分しない場合はその内容を注記します。契約資産・契約負債・債権について、それぞれの内容を表す科目をもって表示することが基本です。

また、注記事項としては、収益認識基準では、顧客との契約から生じた債権、契約資産及び契約負債の期首残高及び期末残高(区分して表示していない場合)等を含む、契約及び履行義務に関する情報の開示が求められます。これにより、財務諸表利用者が収益及びキャッシュ・フローの性質・金額・時期・不確実性を理解できるようにします。

仕訳例(債権の貸倒れ):契約資産・債権に係る貸倒れの見積りは、金融商品会計基準に従って処理します。債権について貸倒引当金20万円を計上する場合

(決算時:貸倒引当金の計上)
(借方)貸倒引当金繰入額  200,000  (貸方)貸倒引当金  200,000

留意点

  • 契約資産と債権の振替:収益認識時はまず契約資産、対価への権利が無条件になった時点で債権(売掛金)へ振り替える。両者を一律に売掛金処理すると、無条件でない権利を債権として過大表示するおそれがある
  • 契約負債と前受金の関係:契約負債は前受金に相当するが、収益認識基準上の定義(第11項)に沿って、移転義務に対応する受領済対価・受取期限到来分を計上する。返金義務がある場合は返金負債として区別する場面もある
  • 流動・固定の区分:契約資産・契約負債は、決済・取崩しの時期に応じて流動・固定を区分する。長期の前受や長期工事等では固定区分の検討が必要
  • 注記の充実:契約資産・契約負債・債権の期首・期末残高に加え、当期の収益認識による契約負債の取崩し額や、残存履行義務に配分した取引価格等の注記が求められる場合がある。開示項目の網羅性を確認する
  • 貸倒れ・減損の取扱い:契約資産・債権の信用リスク(貸倒れ)は金融商品会計基準に従って評価する。契約資産も貸倒引当金の対象となる点に留意する

まとめ

契約資産・契約負債・債権の要点は次のとおりです。

勘定

意味

計上のきっかけ

根拠条項

契約資産

移転済の対価への権利のうち無条件でないもの

企業の履行が先行し、請求権が未だ無条件でない

第10項、第77項

顧客との契約から生じた債権

対価への無条件の権利

対価を収受する現在の権利を有する状態

第12項

契約負債

移転義務に対して受領済(又は受取期限到来)の対価=前受金

顧客の支払が先行

第11項、第78項

3つの勘定は、「収益を先に計上したか(→契約資産・債権)」「対価を先に受け取ったか(→契約負債)」、そして対価への権利が「無条件か否か(→債権か契約資産か)」という軸で整理すると理解しやすくなります。まずは自社の取引について、請求のタイミングと収益認識のタイミングのずれを洗い出し、契約資産・契約負債が生じる取引パターンを把握するところから始めてみてください。